The Chu-Shikoku American Studies Society

中・四国アメリカ学会

中・四国アメリカ学会事務局長・山本貴裕

〒731-0193 広島市安佐南区祇園5-37-1

会長挨拶

会長からのご挨拶

中野博文(北九州市立大学)

2019 年 11 月から本学会の会長を拝命いたしました。このたび、本学会ホーム ページの刷新にともない、あらためて、ご覧の方々に向けご挨拶をさせていただき ます。
本学会の歩みを振りかえると、そこには日本におけるアメリカ研究の変遷が如実 に示されております。私が本学会に入会した1993年当時、日本の大学院で学ぶ者 は、いまだマイクロフィルム資料を利用して、修士論文や博士論文の作成に取り組 んでいました。1980年代、中曽根康弘政権によって「国際化」が訴えられたことも あって、米国に留学し学位を取得して帰国する人々が増加しておりました。しか し、まだまだ国外でのリサーチは限定的でしたし、インターネットも普及の途上に あってオンライン資料もきわめてわずかでした。
今日、コロナ禍にあって海外渡航が制限されているとは言え、米国での資料収集 は、われわれの日常的な活動になっております。また、科学研究費を取得したプロ ジェクトでは、海外研究者との連携が不可欠です。20世紀末のグローバリゼーショ ンは交通運輸、情報のテクノロジーを土台として世界を変貌させましたが、アメリ カ研究という学問の在り方も一変させたのです。
こうしたグローバル化は、われわれのアメリカ理解をゆたかなものにしました。 多様な情報がアメリカから、日々、洪水のように押し寄せ、また早くから米国留学 し研究者になった人々が活躍しています。他面、学問の豊穣化は、一面で研究の細 分化と、米国での研究を十分に咀嚼しないまま日本に輸入することにも、つながり ました。
植民地期から現在までを一貫して扱うのが、日本のアメリカ研究の特質でした。 そうした一貫したアメリカ理解の基礎となる文化理解に先達は尽力してきたので す。しかし、トランプ政権の登場と社会の混乱など、これまでのアメリカ理解を揺 るがす事態が連続するなかで、多くの研究者は自らのアメリカ理解への深刻な反省 を迫られています。トランプ政権は、グローバル化した世界が生み出した歪んだ専 制政治と見ることもできます。われわれは、グローバリゼーションのなかで起きた 現実政治の歪みを適切に理解するという課題と、細分化されて十分な学問的批判を 受けていない学問成果を、これまでの研究の文脈に正しく位置づけなおすという課 題と、二つの難問に直面しています。
こうした困難のなかで学問をおこなう場として、本学会は他にない特質を持って います。広島という地域に拠点を置いていることもあって、研究者間の緊密な人間 的なつながりがあるため、アメリカ研究という学問の根本にある世界観、人間観を 広く深く議論することができるのです。それは、この学会を創設し、困難のなかで 発展に努力してこられた方々が築いた文化的資源とも言えましょう。
文学、歴史、政治経済の研究者が熱く議論し、日々刻々と変わるアメリカの現状 を多面的かつ長期的に考察する学会活動は、グローバリゼーションが進んだ今日、 もっとも望まれるものと思います。この学会のミッションは、大学院や学部の学 生、アメリカに関心を持つ社会人の方々と一緒になって、アメリカという地域の学 問としての理解を着実に進めていくことにあると、私は考えております。こうした 発展に向けて努力してまいりますので、みなさまのご協力を賜りますようお願い申 し上げます。